ここはとある町の喫茶店。
レコードを聴きながら今日もマスターはつぶやく。
【4コマ漫画】喫茶店マスターのつぶやき9
『バードランドの夜 Vol.1』の解説
1954年、ニューヨークの伝説的なジャズ・クラブ「バードランド」で録音されたこのライヴ・アルバム『バードランドの夜 Vol.1(A Night at Birdland Vol.1)』は、ハード・バップの夜明けを告げる記念碑的な一作として、今なお語り継がれています。
リーダーは、ブラス界の火の玉、アート・ブレイキー(ds)。彼の躍動感あふれるドラムが中心となり、ホレス・シルヴァー(p)、クリフォード・ブラウン(tp)、ルー・ドナルドソン(as)、カーリー・ラッセル(b)という若き才能が火花を散らす構成です。録音当時、ブラウンはわずか23歳。彼の瑞々しくも芯のあるトランペットは、このアルバムで一躍注目を集めることになります。
この『Vol.1』には当初全3曲が収録されており、冒頭の『Split Kick』から、観客の歓声が入り混じる生々しい熱気に包まれています。ライヴならではの臨場感が、演奏の勢いと相まって、まるでバードランドの最前列で聴いているかのような体験を味わえます。
なかでも『A Night in Tunisia(チュニジアの夜)』は、ブレイキーのドラム・ソロが炸裂する名演として特筆すべき一曲です。ここでの彼はただのリズムの土台ではなく、メロディを語る打楽器奏者として、聴き手に強烈な印象を残します。
もうひとつ特筆すべきは、ホレス・シルヴァーのピアノ・ワーク。いわゆる“ファンキー・ピアノ”の源流ともいえる彼の演奏は、ゴスペルやブルースの香りを纏いつつも、端正で構成力があり、若き日の演奏とは思えない成熟を感じさせます。ハード・バップが単なるビ・バップの延長線上ではなく、もっと地に足のついた音楽として発展していく萌芽がここに見て取れます。
プロデューサーはブルーノートの創設者であるアルフレッド・ライオン、録音を担当したのはエンジニア界の伝説、ルディ・ヴァン・ゲルダー。この二人が作り上げた録音体制は、その後の「ジャズを作品として記録する」という考え方を決定づけるものでした。
アルバム全体から感じられるのは、若き才能たちが一堂に会し、その瞬間瞬間に全力で何かを生み出そうとしている熱気。まさに、後のジャズの進化を担う精鋭たちによる「歴史が動いた夜」を切り取った一枚です。
4コマ作者
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商業誌での受賞経験あり。
約1年間Web連載の漫画原作(ネーム担当)経験あり。
2019年よりフリーで活動中。
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