ここはとある町の喫茶店。
レコードを聴きながら今日もマスターはつぶやく。
【4コマ漫画】喫茶店マスターのつぶやき12
『Cool Struttin’(クール・ストラッティン)』の解説
『Cool Struttin’(クール・ストラッティン)』は、1958年にブルーノート・レーベルから発売されたソニー・クラークの名盤です。
発売当時こそ大きなヒットにはなりませんでしたが、1960年代以降、日本のジャズ喫茶で頻繁にかけられるようになり、次第にファンの間で隠れた名盤として人気を集めていきました。
この作品は、音楽だけでなく、ジャケットの魅力でも知られています。黒いスカートに白いストッキングの女性が、ニューヨークの街角を颯爽と歩く――。音楽だけでなく、アートとしての完成度が高い点も、『クール・ストラッティン』が愛され続ける理由の一つです。
ソニー・クラークは、1950年代に活躍したジャズ・ピアニスト。派手さはありませんが、軽やかでセンスのあるピアノ・タッチに多くのファンが魅了されました。わずか31歳で亡くなってしまったこともあり、その短い生涯で残した作品の輝きはいっそう強く感じられます。その中でも『クール・ストラッティン』は、彼の魅力が最もよく表れている代表作です。
このアルバムのメンバーは、当時のトップ・プレイヤーばかり。トランペットのアート・ファーマー、アルト・サックスのジャッキー・マクリーン、ベースのポール・チェンバース、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズという豪華な顔ぶれです。どの楽器も主張しすぎず、互いの呼吸を感じながら演奏しているのが特徴です。
1曲目の表題曲『Cool Struttin’』は、アルバムを象徴するナンバーです。タイトルの意味は「クールに闊歩する」「粋に歩く」といったニュアンスで、まさに街をスタイリッシュに歩くような軽快なブルース。ソニー・クラークのピアノは明るくリズミカルでありながら、どこか寂しさや陰りを帯びています。華やかな都会の裏にある静かな哀愁が滲み、聴くほどに深い余韻を残します。
2曲目の『Blue Minor』では、クラークのブルース感がより強く表れています。落ち着いたテンポで、しっとりとした大人のムード。ピアノの一音一音に“間”の美しさが感じられ、彼の演奏のセンスが光ります。他にも、軽快で遊び心のある『Sippin’ at Bells』や、夜の雰囲気が漂う『Deep Night』などが収録されています。
ソニー・クラークのピアノには、派手なテクニックというよりも品のあるスウィングが印象的です。聴く人に寄り添うような優しさ、そしてどこか孤独を感じさせる繊細さ。まるで夜の街で静かに灯る街灯のような存在感です。だからこそ、初心者が聴いても難しく感じず、ジャズの魅力を自然に感じ取ることができます。
仕事帰りにイヤホンで聴くのも良し、休日の夜にコーヒー片手にゆっくり流すのも良し。時代を超えて、どんなシーンにも溶け込む不思議な魅力があります。
軽やかに、でもどこか切なく――。そんなクールな足取りを、ぜひあなたも感じてみてください。
4コマ作者
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商業誌での受賞経験あり。
約1年間Web連載の漫画原作(ネーム担当)経験あり。
2019年よりフリーで活動中。
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