キース・ジャレットの『星影のステラ』を聴く。【4コマ漫画付き記事】

JAZZあれこれ

ここはとある町の喫茶店。

レコードを聴きながら今日もマスターはつぶやく。

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【4コマ漫画】喫茶店マスターのつぶやき17

『Stella By Starlight』の解説

『星影のステラ (Stella by Starlight)』は、ジャズを聴き始めると必ず耳にする大定番のスタンダード・ナンバーです。

もともとは1944年の映画『呪いの家』のテーマ曲としてヴィクター・ヤングが作曲したもので、美しくもどこか切ないロマンチックなメロディを持っています。

後に歌詞もつけられましたが、マイルス・デイヴィスやスタン・ゲッツをはじめ、数え切れないほどのジャズメンたちに愛され、今日まで幾度となく演奏されてきました。

その理由は、メロディの美しさだけでなく、ジャズ・ミュージシャンたちの即興演奏の創造力をかき立てる、少し複雑で魅力的なコード進行(和音の並び)にあると言われています。

星の数ほどあるこの曲の録音の中から、今回取り上げるのは、キース・ジャレット率いる「スタンダーズ・トリオ」が1985年にパリで録音し、翌86年に発表したライヴ・アルバム『スタンダーズ・ライヴ (Standards Live)』に収録されているヴァージョンです。

当時のキース・ジャレットといえば、あらかじめ決められた曲を持たずにステージに上がり、その場のインスピレーションだけで長時間の完全即興演奏を繰り広げるソロ・ピアノで、すでにカリスマ的な人気を誇っていました。

そんな彼が1980年代に入り、ゲイリー・ピーコック(ベース)ジャック・ディジョネット(ドラムス)とともに、あえて誰もが知る古い名曲(スタンダード)だけを演奏するトリオを結成したのです。

エレクトリックな楽器が流行していた当時のジャズ界において、現代最高峰の才能を持つ彼らが「いまさら昔の曲をアコースティックでやる」というのは、実はとても斬新で驚きをもって迎えられました。

彼らは事前の綿密なリハーサルやアレンジを好まず、曲のテーマだけを共有し、あとはお互いの音を聴き合いながらその場で音楽を構築していくスタイルをとりました。

この『星影のステラ』では、キースの透明感あふれる美しいピアノのタッチがイントロから聴く者を一気に引き込みます。そこに、ゲイリー・ピーコックの深く歌うようなベースが絡みつき、ジャック・ディジョネットのシンバルがまるで波のように繊細でダイナミックなリズムを描き出します。演奏が白熱していくにつれて聴こえてくるキース特有の「唸り声」も、ライヴならではの臨場感と彼らの没入ぶりを伝えるスパイスになっています。

特筆すべきは、お馴染みのメロディをただ綺麗になぞるだけでなく、3人がまったく対等な立場で音の会話(インタープレイ)を繰り広げ、曲がひとつの生き物のように展開していくところです。

美しいバラードとして始まりながら、次第に熱を帯びてスリリングに高揚していくその過程には、ジャズという音楽を聴く醍醐味がぎゅっと詰まっています。

手垢のついた古いスタンダード曲でさえ、彼らが演奏すれば、今この瞬間にしか生まれない全く新しい命が吹き込まれる。1980年代に結成され、その後数十年にわたってジャズ・シーンの頂点に君臨し続けた彼らですが、その理由はこの『星影のステラ』を聴けば理屈抜きで伝わってきます。

ジャズが持つスリリングな楽しさと美しさが同居した、何度でもリピートしたくなる名演なんです。

4コマ作者

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商業誌での受賞経験あり。
約1年間Web連載の漫画原作(ネーム担当)経験あり。
2019年よりフリーで活動中。
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