スティープルチェイス・レコードとは?アメリカの巨匠たちが愛したデンマークの名門

JAZZあれこれ

どうも、ズワイガニです。

「ジャズといえばアメリカじゃないの?」と思う方も多いかもしれません。しかし、1970年代というジャズの歴史において非常に難しい時期に、本来のジャズの灯を守り抜いたのは、実はデンマークの小さなレーベルでした。

そのレーベルが、今回ご紹介する北欧の名門「スティープルチェイス・レコード(SteepleChase Records)」です。

今回は、ジャズ初心者の方にぜひ知っていただきたい「スティープルチェイス・レコード」の歴史と魅力、そして絶対に外せない名盤をご紹介します!

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1970年代のジャズの危機と、北欧のオアシス

スティープルチェイスが設立されたのは1972年のこと。この時代、本場アメリカのジャズ・シーンは大きな転換期を迎えていました。

マイルス・デイヴィスをはじめとする多くのミュージシャンが電気楽器を導入し、ロックやファンクと融合した「フュージョン」が大流行。その結果、昔ながらのアコースティック楽器で演奏するストレート・アヘッドなジャズのミュージシャンたちは、アメリカ国内で仕事や録音の機会を急激に失ってしまったのです。

そんな彼らが新天地として求めたのが、ヨーロッパでした。特にデンマークの首都コペンハーゲンには「カフェ・モンマルトル」という有名なジャズ・クラブがあり、多くのアメリカ人ジャズメンがそこで演奏をするようになりました。

伝説の始まり。一人の学生の熱意が巨匠を動かした夜

スティープルチェイスが、ただの「海外のマイナー・レーベル」ではなく、ミュージシャンたちから深く愛されるようになったのには、ある決定的なエピソードがあります。

設立者であるニルス・ウィンターは、当時まだコペンハーゲン大学に通う一人の学生に過ぎませんでした。

ある夜、彼はカフェ・モンマルトルで、アメリカからやってきたアルト・サックスの巨匠、ジャッキー・マクリーンの演奏を目の当たりにします。

当時のマクリーンは、アメリカの音楽業界の流行の変化に飲まれ、なんと5年もの間、自身のリーダー作を録音する機会に恵まれていませんでした。

そんな彼に対し、ただのいちファンであった若きウィンターは、「あなたの今の素晴らしい演奏を、どうしても録音させてほしい!」と直談判したのです。

資金も実績もない若者の無謀な申し出でしたが、ウィンターの純粋な「ジャズへの熱意」はマクリーンの心を動かしました。こうして実現したのが、のちにご紹介するレーベルの記念すべき第一弾『Live at Montmartre』です。

機材をかき集めて録音されたこの熱狂的なライヴ音源が素晴らしい評価を受けたことで、「デンマークに、俺たちの音楽を本当に愛し、最高の音で録ってくれる若者がいる」という噂が、アメリカ人ジャズメンたちの間に広まりました。

デクスター・ゴードン(テナー・サックス)やケニー・ドリュー(ピアノ)といったレジェンドたちが次々とこのレーベルに録音を残すようになったのは、この「一人の学生の情熱」があったからなのです。

スティープルチェイス・サウンドの3つの魅力

なぜスティープルチェイスの作品は、今日まで多くのジャズ・ファンに愛され続けているのでしょうか?その魅力は大きく3つあります。

① アコースティック・ジャズへの徹底したこだわり

流行の電気楽器には目もくれず、ピアノ、ベース、ドラム、そしてアルト・サックスやテナー・サックスといった生楽器のアンサンブルにこだわりました。

そのため、時代を超えても色褪せない、純粋で美しいジャズのサウンドが録音されています。

② 臨場感あふれる「ライヴ」録音

レーベル初期の作品の多くは、前述の「カフェ・モンマルトル」で録音されました。

観客の熱気やグラスの鳴る音、ミュージシャンたちの息遣いまで伝わってくるような、生々しいライヴ音源はスティープルチェイスの大きな特徴です。別テイクや別ヴァージョンを聴き比べる楽しさも提供してくれました。

③ 天才ベーシスト「ペデルセン」の存在

スティープルチェイスを語る上で絶対に欠かせないのが、デンマーク出身の天才ベーシスト、ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン(通称NHØP)の存在です。

彼はハウス・ベーシスト(レーベルのお抱え伴奏者)として数多くのセッションに参加し、アメリカの巨匠たちを驚愕させるほどの圧倒的なテクニックと歌心で、レーベルのサウンドを底上げしました。

初心者におすすめのスティープルチェイス名盤3選

膨大なカタログの中から、特におすすめしたい聴きやすい名盤を3枚厳選しました。

Flight to Denmark / デューク・ジョーダン (1974)

まずは、スティープルチェイスといえばこの1枚。アメリカで不遇の時代を過ごしていたピアニスト、デューク・ジョーダンがデンマークで録音した大復活作です。

冒頭の『No Problem(危険な関係のブルース)』から、北欧の冷たくも澄んだ空気感と、ジョーダンの温かみのあるピアノが見事にマッチしています。哀愁漂うメロディが多く、ジャズ初心者でもスッと耳に馴染む、永遠のピアノ・トリオ名盤です。

Dark Beauty / ケニー・ドリュー (1974)

こちらもヨーロッパへ渡った名ピアニスト、ケニー・ドリューによる大傑作。日本でも非常に人気の高いアルバムです。

タイトル通り「暗い美しさ」を感じさせるような、力強くもロマンチックなピアノが堪能できます。ここでもベーシストのペデルセンが参加しており、ドリューのピアノに絡みつくような信じられないほど滑らかなベース・ラインを披露しています。アップテンポからバラードまで、捨て曲なしの1枚です。

Live at Montmartre / ジャッキー・マクリーン (1972)

スティープルチェイスの記念すべき栄光の第一弾(カタログ番号SCS-1001)となったアルバムです。熱情的なプレイで知られるアルト・サックス奏者、ジャッキー・マクリーンがカフェ・モンマルトルで繰り広げた白熱のライヴ盤。

当時のマクリーンはしばらく録音から遠ざかっていましたが、このステージでは溜まっていたエネルギーを爆発させるかのように、キレのある強烈なアルト・サックスを響かせています。ライヴならではの熱気を味わいたい方にぴったりです。

おわりに

いかがでしたでしょうか?

アメリカで居場所を失いかけたジャズの巨人たちに、温かいスポットライトを当て直したデンマークの「スティープルチェイス・レコード」。

ニルス・ウィンターのジャズへの深い愛があったからこそ、私たちは今でも1970年代の極上のアコースティック・ジャズを楽しむことができます。

スティープルチェイス・レコードのアルバムを見つけたら、ぜひ聴いてみてください。そこにはきっと、色褪せることのない本物のジャズが待っているはずです!

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