【西海岸ジャズの傑作】アート・ペッパーの名盤『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』

JAZZあれこれ

どうも、ズワイガニです。

1950年代、ロサンゼルスを中心にウエストコースト・ジャズと呼ばれるスタイルが大きな人気を集めました。その中で特に高く評価されている名盤が『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』です。

アルト・サックスの名手アート・ペッパーが、当時マイルス・デイヴィス・クインテットを支えていたリズム・セクションと共演を果たした一枚。ウエストコーストの爽やかさと東海岸のリズム隊の熱気がぶつかり合った、特別なセッションを収めたアルバムです。

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アート・ペッパーとは?

アート・ペッパーは、ウエストコースト・ジャズにおける代表的なアルト・サックス奏者です。

少年時代から音楽に親しみ、クラリネットを経てアルト・サックスに転向。高校時代には地元のビッグ・バンドで演奏し、戦後はスタン・ケントン楽団などの有名バンドで実力を磨きました。

ただし、そのキャリアは順風満帆ではありません。薬物依存や収監によって活動が中断される時期も多くありました。それでも彼の音楽性は失われることなく、1950〜60年代の録音には、感情のこもったフレーズと温かくも鋭い音色が刻まれています。

いわゆる「クール」と呼ばれるウエストコースト・ジャズの中でも、どこか熱さを秘めたサックス奏者として特別な存在でした。

その後、再び薬物問題などで活動が停滞しますが、1973年に復帰。以降、1977年の日本初公演をはじめ、ヨーロッパや日本などでもツアーを行い、国際的に精力的な活動を展開しました。

当時のジャズ・シーン

1940〜50年代のアメリカでは、地域ごとにジャズのスタイルが分かれていました。ニューヨークを中心とする東海岸では、ビ・バップやハード・バップと呼ばれるスピード感と熱気にあふれたスタイルが主流。一方、西海岸のロサンゼルスでは、より落ち着いた雰囲気の「クールジャズ」「ウエストコースト・ジャズ」が人気でした。

ウエストコースト・ジャズの特徴は、アレンジの整った音作りや録音のクリアさ、歌うように軽快なソロ。都会的で洗練された響きを持ちます。

そんな中でアート・ペッパーは、表面的なクールさだけでなく、心の奥にある感情まで音に込めたことで、他の奏者とは一線を画しました。

Art Pepper Meets The Rhythm Section / アート・ペッパー

このアルバムは1957年1月19日にロサンゼルスで録音されました。タイトルの通り、アート・ペッパーが当時のマイルス・デイヴィス・クインテットのリズム・セクションと共演しています。

西の代表=アート・ペッパーと、東の代表=マイルスのリズム隊が一堂に会した「夢の顔合わせ」と言える一枚です。

  • アート・ペッパー(as)
  • レッド・ガーランド(p)
  • ポール・チェンバース(b)
  • フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)

このリズム・セクションは当時のマイルス・デイヴィス・クインテットの中核。いわば一流中の一流です。彼らの安定したグルーヴに乗って、ペッパーのサックスは伸び伸びと歌い、時に鋭く、時に切なく響きます。

選曲も魅力的で、スタンダードの『You’d Be So Nice to Come Home To』や『Star Eyes』、ディジー・ガレスピー作曲の『Birks’ Works』などが収録されています。どの曲も親しみやすく、ジャズ初心者でも聴きやすい構成です。

レコーディングは初顔合わせでいきなり本番だった!?

1957年1月、マイルス・デイヴィス・クインテットは西海岸のジャズ・クラブを巡業していました。そのタイミングを見逃さなかったのが、コンテンポラリー・レコードのプロデューサー、レスター・ケーニッヒです。彼は「西のアルト奏者アート・ペッパーと、東のマイルス・リズム・セクションを共演させたい」と考え、この企画を実現させました。

しかし、いきなりマイルスの代わりにペッパーを据えるのは大きな挑戦です。ケーニッヒは、ペッパーがプレッシャーで萎縮してしまわないよう、なんと当日まで共演メンバーを伏せ、ぶっつけ本番でセッションを行うことにしました。

ペッパー自身もしばらく楽器を吹いておらず、サックスの調子も万全ではなかったといいます。しかも初対面でマイルスのリズム・セクションといきなり録音するのですから、当然ナーバスになったそうです。

ところが、その緊張感が逆に集中力を引き出し、結果的に歴史に残る名演が誕生しました。まさに偶然と必然が重なって生まれた奇跡の一枚と言えるでしょう。

おわりに

『Art Pepper Meets the Rhythm Section』は、ウエストコースト・ジャズの入口としても最適な一枚です。明るく聴きやすい雰囲気の中に、ペッパーの感情がにじみ出るサックスと、東海岸リズム隊のエネルギーが溶け合っています。

ジャズ初心者の方でも気軽に楽しめるアルバムでもありますので、ぜひ聴いてみてくださいね!

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