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父への愛と名曲。ホレス・シルヴァーの『ソング・フォー・マイ・ファーザー』

JAZZあれこれ

どうも、ズワイガニです。

ジャズを聴き始めると、「名盤」と呼ばれるアルバムがたくさんあって、どれから聴けばいいか迷ってしまいますよね。小難しい理論や、激しすぎるアドリブ合戦はまだちょっと・・・というジャズ初心者の方に、私が自信を持っておすすめしたいのが「ファンキー・ジャズ」というジャンルです。

黒人音楽特有のブルースやゴスペルの要素を取り入れた、思わず体を揺らしたくなるようなグルーヴ感が特徴で、メロディも非常にキャッチー。そんなファンキー・ジャズの立役者の一人が、ピアニストのホレス・シルヴァーです。

今回は、彼の代表作であり、ジャズ史に残る大名盤をご紹介します。

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Song for My Father / ホレス・シルヴァー (1965)

ブルーノート・レコードからリリースされた本作は、ホレス・シルヴァーのキャリアにおいて最も成功したアルバムの一つです。

まず目を引くのが、葉巻を手に涼しげな表情でこちらを見つめる、渋いおじさまのジャケット写真。「この人は誰?」と思うかもしれませんが、実はこの方、ホレス・シルヴァーのお父様、ジョン・タヴァレス・シルヴァー氏なのです。

ジャズのアルバム・ジャケットといえば、アーティスト本人のポートレートや抽象的なアートワークが多い中で、自分の父親の写真をドン!と持ってくるのは非常に珍しいこと。ここには、本作に込められたホレスの深いルーツへの敬意が表れています。

ホレスのお父様は、アフリカ大陸の西に浮かぶ島国、カーボヴェルデ(当時はポルトガル領)の出身でした。カーボヴェルデはポルトガル文化とアフリカ文化が混ざり合った独特の音楽文化を持っています。お父様は自宅でよく、そのカーボヴェルデの民謡をギターやヴァイオリンで演奏していたそうです。

1964年、ホレスはブラジルへツアーに赴き、そこで本場のボサノヴァに触れます。その時、彼は「ブラジルのリズムと、子供の頃に親父が弾いていたカーボヴェルデの音楽には、どこか共通するグルーヴがある!」と直感しました。

そのインスピレーションと、父への敬意を融合させて誕生したのが、このアルバムであり、タイトル曲である『ソング・フォー・マイ・ファーザー』なのです。

名曲『ソング・フォー・マイ・ファーザー』の魅力

アルバムの1曲目を飾るタイトル曲『ソング・フォー・マイ・ファーザー』は、ジャズのスタンダード・ナンバーとして現在でも世界中で愛奏されています。

この曲の最大の魅力は、なんといってもその「親しみやすさ」です。イントロで流れる「ダ・ダ・ダ・ダッ・ダン」という、ピアノとベースのユニゾンによる印象的なベースライン。一度聴いたら耳から離れない、非常にキャッチーなリフから曲がスタートします。

実はこのイントロ、アメリカのロック・バンド、スティーリー・ダンが1974年に発表した大ヒット曲『リキの電話番号 (Rikki Don’t Lose That Number)』で、そっくりそのままオマージュとして使われています。もしロックがお好きな方なら、「あ、このフレーズ聴いたことある!」とテンションが上がるはずです。

リズムはジャズ特有の跳ねるようなスウィング・ビート(チーチッキ、チーチッキというリズム)ではなく、ラテンやボサノヴァのテイストを取り入れた独特のイーヴン・ペース(均等なリズム)で進みます。この絶妙なブラジリアン・テイストが、心地よい哀愁と温かみを生み出しています。

そして、テーマ(主旋律)が終わった後のソロ・パートも必聴です。特に、ジョー・ヘンダーソンによるテナー・サックスのソロは、ジャズ史に残る名演として語り継がれています。

少ない音数から始まり、徐々に熱を帯びていき、メロディアスでありながらも力強いフレーズを展開していくその構成美は、まさに鳥肌モノ。ジャズのアドリブ・ソロはどう聴けばいいか分からない、という方でも、この起承転結のハッキリしたソロは物語を読むように楽しめるはずです。

過渡期を捉えた貴重なドキュメント

実はこのアルバム、全曲が同じメンバーで録音されたわけではありません。1963年のセッションと1964年のセッションという、異なる時期の録音が混ざって収録されています。

ホレス・シルヴァーは自身のバンド「ザ・ホレス・シルヴァー・クインテット」を率いていましたが、1963年と1964年の間にメンバーがガラリと入れ替わっているのです。

1963年録音の旧クインテットおよびトリオ(3,6曲目)

  • ホレス・シルヴァー(p)
  • ブルー・ミッチェル(tp) ※6曲目は不参加
  • ジュニア・クック(ts) ※6曲目は不参加
  • ジーン・テイラー(b)
  • ロイ・ブルックス(ds)

1964年録音の新生クインテット(1,2,4,5曲目)

  • ホレス・シルヴァー(p)
  • カーメル・ジョーンズ(tp)
  • ジョー・ヘンダーソン(ts)
  • テディ・スミス(b)
  • ロジャー・ハンフリーズ(ds)

1963年までの旧クインテットは、長年ホレスと共にファンキー・ジャズを牽引してきた鉄壁の布陣でした。彼らの演奏は、息の合ったリラックスしたグルーヴが特徴です。

ちなみに3曲目の『Calcutta Cutie』は、管楽器の2人がソロを取らずテーマのアンサンブルのみに参加するという珍しい構成になっています。

一方、タイトル曲を含む1964年の新生クインテットは、若き天才テナー・サックス奏者であるジョー・ヘンダーソンを迎え、よりモダンで洗練された、新しい時代の空気を感じさせるサウンドになっています。

1枚のアルバムの中で、バンドが進化していく過渡期を味わえるのも、本作の隠れた聴きどころです。トランペットやテナー・サックスの音色や、リズム隊のノリの違いを聴き比べてみるのも面白いですよ。

その他の注目トラック

本作の魅力は、キャッチーなタイトル曲だけにとどまりません。

アルバム全体を聴き進めると、新旧のメンバーたちが織りなす極上のアンサンブルをたっぷりと堪能することができます。

また、管楽器が火花を散らすスリリングな展開や、ホレスのルーツを感じさせるラテン・テイストなど、ジャズの醍醐味がギュッと詰まっています。

その中でオススメの3曲を紹介します!

『The Kicker』

この曲はホレスの作曲ではなく、テナー・サックスを担当するジョー・ヘンダーソンが持ち込んだオリジナル曲です。

タイトルの通り「蹴り上げる」ような、アップテンポでエネルギッシュなハード・バップ・チューン。若きジョー・ヘンのキレのあるテナー・サックスと、ホレスのパーカッシヴ(打楽器のよう)なピアノのバッキングが火花を散らす、スリリングな1曲です。

『Lonely Woman』

ホレス・シルヴァーはホーン・セクション(管楽器)を入れたクインテット(5人編成)での演奏が多いですが、この曲はメンバー・リストの注釈にもある通り、管楽器が抜けたピアノ、ベース、ドラムスによるピアノ・トリオ編成で演奏されています。

非常に美しく、そして切ないバラードです。彼のファンキーな面だけでなく、繊細でリリカルなピアニストとしての魅力がたっぷりと詰まっています。

夜更けに一人でお酒を飲みながら聴きたくなるような、ムード満点のトラックです。

『Que Pasa』

こちらもラテンのリズムを取り入れた楽曲。スペイン語で「調子はどう?」といった意味を持つタイトル通り、少し気怠いながらも思わずステップを踏みたくなるような独特のノリがあります。

マイナー・コード(暗い和音)の響きとラテンの陽気さが入り混じった、ホレスならではの作曲センスが光ります。

おわりに

ホレス・シルヴァーの『ソング・フォー・マイ・ファーザー』を紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

ジャズと聞くと、大人の難解な音楽というイメージを持たれがちですが、このアルバムにはそんな敷居の高さは一切ありません。ルーツであるアフリカやブラジルのリズム、そして父親への愛情が、誰にでもスッと入り込んでくる親しみやすいメロディに昇華されています。

朝のコーヒー・タイムに流してもよし、ドライブのお供にするもよし、もちろんじっくりとスピーカーの前に座ってソロの展開に耳を傾けるもよし。どんなシチュエーションにも寄り添ってくれる、懐の深い一枚です。

ぜひ、ホレス・シルヴァーが生み出す極上のグルーヴと、温かいメロディに身を委ねてみてください!

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