どうも、ズワイガニです。
ジャズを聴き始めると、誰もが一度はぶつかる壁がありますよね。「曲はカッコいいんだけど、誰がどうすごいのか、歴史や背景がよくわからない・・・」「名盤って言われているアルバムを聴いてみたけど、難解でちょっととっつきにくい・・・」
そんなお悩みを抱えているジャズ初心者の方に、全力でおすすめしたい1冊があります。
それが、藤岡靖洋(ふじおか やすひろ)氏が執筆した『コルトレーン ジャズの殉教者』(岩波新書、2011年出版)です。
ジャズ界の最大の巨人の一人であるジョン・コルトレーンの生涯を描いた評伝なのですが、これがもう、めちゃくちゃ面白いんです!単なる音楽の解説本ではなく、一人の人間の壮絶な生き様を描いたドキュメンタリー映画を見ているような感覚に陥ります。
今回は、この『コルトレーン ジャズの殉教者』の魅力と、なぜジャズ初心者の方にこそ読んでほしいのかを語っていきたいと思います!
ジョン・コルトレーンってどんな人?
本題に入る前に、まずは主役である「ジョン・コルトレーン」について軽くおさらいしておきましょう。
ジョン・コルトレーン(1926年〜1967年)は、ジャズの歴史を語る上で絶対に外すことのできないテナー・サックスおよびソプラノ・サックスの神様です。ジャズを少しでもかじったことがある人なら、その名前を一度は耳にしたことがあるはず。
彼の音楽人生は、まさに「進化」と「求道」の連続でした。マイルス・デイヴィスのバンドに抜擢されて頭角を現した彼は、その後独立し、自身のリーダー・アルバムを次々と発表します。
1958年リリースの『ブルー・トレイン』や、1960年リリースの『ジャイアント・ステップス』では、圧倒的なテクニックで音符を敷き詰める「シーツ・オブ・サウンド」と呼ばれる独自のスタイルを確立しました。
しかし、彼はそこで立ち止まりません。 1965年にリリースされた歴史的名盤『至上の愛(A Love Supreme)』では、神への深い感謝と祈りを込めたスピリチュアルな境地へと到達。さらに、1966年リリースの『アセンション』などでは、和音やリズムの枠組みを取り払った前衛的なフリー・ジャズの世界へと突入していきます。
常に自分を追い込み、音楽の可能性を極限まで追求し続けたコルトレーン。彼は1967年に40歳という若さでこの世を去ってしまいますが、そのあまりにもストイックな生き様から、まさに「ジャズの殉教者」と呼ばれているのです。
著者の藤岡靖洋氏がスゴすぎる!
さて、そんなコルトレーンの生涯を描いた本書ですが、実は著者のバックグラウンドがとんでもなく面白いんです。
著者の藤岡靖洋氏は、世界的に知られるジョン・コルトレーン研究家であり、膨大な資料を持つコレクターです。しかし、彼の本業は音楽評論家でも学者でもありません。なんと、大阪の老舗呉服屋の旦那さんなんです!
「えっ、呉服屋さんがなんで世界的なジャズの研究家に・・・?」と驚きますよね。藤岡氏は、コルトレーンの音楽に魅了されるあまり、自費で70回以上もアメリカへ調査旅行に赴き、現地の関係者やミュージシャンに直接インタビューを敢行。未公開の写真や発掘資料を次々と収集し、ついには世界中から一目置かれる存在になってしまったという、とんでもない情熱の持ち主なんです。
この本からは、そんな藤岡氏のコルトレーンへの愛と執念がビシビシと伝わってきます。単に海外の文献を翻訳してまとめたような薄っぺらい内容ではありません。著者自身が足で稼いだ一次情報と、深い愛情に基づいた血の通ったエピソードが満載なんです。
「好き」を極限まで突き詰めた人の文章って、理屈抜きに引き込まれるんですよね。
怒涛の日本ツアーから始まる引き込まれる構成
一般的な偉人の伝記本というと、「〇〇年、彼はアメリカの〇〇州で生まれた・・・」というように、時系列に沿って淡々と始まることが多いですよね。
でも、この『コルトレーン ジャズの殉教者』は構成が非常にドラマチックなんです。
本の冒頭は、1966年に行われたコルトレーンの最初で最後の来日ツアーの様子からスタートします。当時の日本のジャズ・ファンが、神様コルトレーンの来日にどれほど熱狂したか。そして、「東奔西走、怒濤の公演日程」と表現されるほどの過密スケジュールの中で、コルトレーンが日本各地でどんなライヴを繰り広げたのかが、ものすごい熱量で描かれています。
特に印象的なのは、彼が長崎や広島を訪れ、原爆の犠牲者に祈りを捧げたエピソードです。寡黙で求道的なコルトレーンが、日本の地で何を感じ、どんな思いでサックスを吹いたのか。日本の読者にとっては、いきなり心をグッと掴まれる最高のオープニングになっています。
そして、この熱狂の日本ツアーを描いた後、時計の針は過去へと戻り、彼の生い立ちや音楽的ルーツ、マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズといった他のジャズ・ジャイアンツたちとの交流が丁寧に紐解かれていくのです。
この映画的な構成のおかげで、ジャズの歴史に詳しくない初心者の方でも、最後まで一気に読み進めることができますよ。
初心者こそ読むべき!ジャズの聴き方が変わる一冊
「コルトレーンの後期のアルバムって、叫び声みたいなサックスの音ばかりで難解だな・・・」
ジャズを聴き始めたばかりの頃、私は正直そう思っていました。美しいメロディの曲は好きだけど、フリー・ジャズの領域に入ると、どうやって楽しめばいいのかわからなかったんです。
でも、この本を読んでから、コルトレーンの音楽の聴こえ方が180度変わりました。
本書では、単なる音楽の解説だけでなく、当時のアメリカ社会の時代背景や黒人差別の歴史、そしてコルトレーン自身の内面的な苦悩やスピリチュアルな目覚めが深く掘り下げられています。
彼がなぜ、あそこまで常軌を逸した練習を重ねたのか。なぜ、マイルス・デイヴィスから「サックスを口から離せばいいだけだ!」と突っ込まれるほど、延々と長いソロを吹き続けたのか。
それらの背景を知ることで、難解に聴こえていた彼のサックスの音色が、魂の叫びであり、神への祈りであることが痛いほど伝わってくるようになります。
「ああいう時代のこういう思いのもとでこの音楽は生まれた」という背景を知ることは、ジャズを楽しむための最高のスパイスになります。
また、この本を通して、モダン・ジャズがどのように発展し、変化していったのかという大きな歴史の流れもスッと頭に入ってきます。コルトレーンという一人の天才を軸にして、ジャズ全体の歴史を俯瞰できるので、初心者の方のジャズの教科書としても超優秀なんです。
読めば読むほど、「あのアルバムをもう一度聴き直したい!」「あのライヴ音源を探して聴いてみたい!」という衝動に駆られること間違いなしです。
おわりに
いかがだったでしょうか?今回は、藤岡靖洋著『コルトレーン ジャズの殉教者』を紹介させていただきました。
ジャズは、ただ音を聴くだけでも十分に素晴らしい音楽ですが、その裏にあるミュージシャンの生き様や歴史的背景を知ることで、感動が何倍にも膨れ上がります。特にコルトレーンのように、人生そのものを音楽に捧げた人物のストーリーは、私たちの心を強く揺さぶってくれます。
新書サイズでサクッと読めるのに、中身は驚くほど濃厚でドラマチック。ジャズ初心者の方も、すでにジャズにどっぷりハマっている方も、絶対に読んで損はない大傑作です。
ぜひ、この本を片手に、コルトレーンの熱いテナー・サックスの音色に耳を傾けてみてください。 きっと、今までとは違うコルトレーンに出会えると思います!

