どうも、ズワイガニです。
「またモーニンかよ!」
この記事を書きながら、自分でもそうツッコミたくなる。
そう、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの代表曲『Moanin’』を取り上げるのは、これで4度目。



けど、語りたい。
いろんな角度から何度でも語りたい。
それくらい俺は『モーニン』を語りたいんや!
ということで今回は、少し趣向を変えて、博士の妄想ジャズ講座を開講してみたいと思います(笑)
信じるか信じないかは貴方次第・・・。
にわかジャズファン。この記事のライターで博士の助手。蟹人(かにんちゅ)。
しったかJAZZ博士
しったかジャズファン。このブログの解説役である博士。おしゃれ眼鏡。
【4コマ漫画】感情表現

モーニンとは?
『モーニン』って、朝のモーニングと関係ないんですね!
よく誤解されがちだが、Moanin’は「うめく」とか「呻き声」の意味なんじゃよ。つまり、Morningとは違うのだよ。Morningとは。
ランバ・ラルみたいな言い方すんな!じゃあ、「朝の曲」じゃなくて、「うなり声の曲」なんですね。
その通り。ジャズ・メッセンジャーズが1958年に放った、いわば魂の叫びのようなナンバーなのじゃ。
『モーニン』を取り上げるの今回で4度目ですよ。この曲はどうしてそんなに人の心を掴むんでしょう?
教会とクラブの境界線を、平然とまたいでいるからだと思う。「祈りの手拍子」と、「夜のビート」が同じテンポで鳴っているのだ。
神聖なのに、やけに人間くさい、と。
そう。『モーニン』は魂の二重奏なのだよ。聴くたびに、自分の中の光と影が一緒に踊り出す。
・・・博士、今ちょっとカッコよかったです。
ジャズを語るときは、格好つけていいんじゃよ。
そ、そっすか・・・。
イントロは「呼びかけ」か「呪文」か?
あのイントロ。ピアノが「ぽんぽぽぽん、ぽんぽん、ぽーん、ぽん」と語りかけるあれ。
ああ、最初の8小節ですね。あれ、耳に残りますよね。
残るどころか、あれで曲の世界観がすべて決まっておる。あのリフは単なるメロディじゃない。まるで呼びかけなのじゃ。
よ、呼びかけ、ですか?
そう。アフリカの音楽に根付くコール&レスポンスの精神がある。ピアノが呼びかけ、ホーンが応答し、ブレイキーのドラムがアーメンを唱える。つまり、イントロの時点で教会の礼拝とクラブのグルーヴが共存しているんじゃ。
なるほど、だから『モーニン』って聴くだけで身体が揺れるんですね。
あのリズムの奥には、「3+3+2」というアフリカ由来の周期が隠れているんじゃ。人間の呼吸みたいに、少しだけズレを感じる構造になっているから、自然と体が反応してしまうんだのう。
音楽理論の話をしてるのに、なんかスピリチュアルですね。
理屈で説明できるグルーヴは、本物じゃない。
今日の博士はいつもと違う・・・!?
アート・ブレイキーは「ドラムの伝道師」
博士、さっきのアーメンを唱えるドラムって話、すごく印象的でした!
だろう?ブレイキーのドラムは、ただリズムを刻むものではない。あれは説教なんじゃ。スネアは言葉、バス・ドラムは心臓。彼は音で人を導いていたのだ。
導くって・・・宗教じゃないんですから。
いや、ブレイキーにとってジャズは信仰だった。聴衆に神を説く代わりに、リズムで魂を目覚めさせていたのだよ。
うーん、ちょっとスピリチュアルすぎません?
スピリチュアルで結構。彼のドラムを聴けば、眠っていた血が動き出す。『モーニン』の最初の一打で、心拍が変わるんだからの。
ほんまかいな、それ医学的には説明できませんよ。記事的に大丈夫ですか?
説明できたらジャズじゃない。彼がドラムを叩くたび、バンド全体が呼吸し始める。それが、ジャズ・メッセンジャーズ(伝道者たち)の意味じゃ。
・・・たしかに、あのバンド名を考えると説教っぽい感じがしてきました。
そうだろう? ブレイキーのステージは礼拝堂だったんじゃ。ただし、聖書の代わりにシンバルが鳴る礼拝堂じゃがな。
博士、そういう比喩だけは上手いですよね。
『モーニン』が生んだ派生曲たち
『モーニン』は、1958年に生まれたジャズの子宮だ。この曲から、多くの名曲が生まれたんじゃ。
ちょ、ちょっと待ってください。子宮って言いました?(笑)
そう。全てのハード・バップは『モーニン』から再誕したと言ってもいい。
いきなり壮大すぎますね・・・。で、その“モーニンの子どもたち”って具体的になんなんですか?
チャールズ・ミンガスの 『Better Git It in Your Soul』。あれは『モーニン』の兄弟じゃ。
え、あの曲、兄弟関係にあったんですか?
構造的にな。あの曲も「ゴスペルの手拍子」と「ブルースのうねり」を持っている。
つまり、「教会の熱」と「クラブの汗」が同じ温度なんじゃよ。
また出ましたね、教会とクラブ理論。
外せん。あの二つが混ざるところに、ジャズの魂が宿るんじゃ。そして、リー・モーガンの『The Sidewinder』。あれも『モーニン』のDNAを引き継いでいる。
でも『The Sidewinder』ってもっとポップじゃないですか?テレビ番組にも使われたような。
ポップでも根っこは同じだ。ブレイキーのドラムに育てられたリー・モーガンが、
『モーニン』のリズムを、当時の若者にわかる形に翻訳したんじゃ。
つまり、『モーニン』がジャズ界の母体で、『The Sidewinder』がその孫ってことですか?
そう言って差し支えない。
いや、差し支えありますって!
細かいことを言うな。重要なのは、あのうねる8小節の系譜が続いていることじゃ。『モーニン』の精神は、形式を超えて今も息づいておる。
また精神論・・・。でも、言われてみれば『モーニン』以降のジャズって、どこか同じ血の匂いがしますね。
だろう?分かってきたじゃないか。みんな、ブレイキーのドラムに一度は洗礼を受けてるってことじゃな。
博士、それを洗礼って言う時点で、もう宗教化してますよ。
『モーニン』は今も朝を告げている
さて博士、ここまで散々語ってきましたが、結局『モーニン』って何なんでしょう?
『モーニン』は、Morning(朝)ではなく、Moanin’(うめく)だが、夜明けの前のうめき声だと思うんじゃ。
夜明け前のうめき・・・ずいぶん詩的ですね。
ジャズは詩だ。この曲は光を歌っているようで、実は闇の中の音なんじゃ。祈りや倦怠といった、夜に溜まった人間の重みを一度ぜんぶ吐き出して、ようやく朝にたどり着く。
つまり、『モーニン』は朝じゃなくて、朝になるための過程なんですね。
その通り。『モーニン』を聴くと、誰もが自分の中の夜を越えようとする。それがこの曲の力なのじゃ。
博士、珍しく真面目に締めましたね。
当たり前じゃ。ジャズを語るときは、敬意をもって静かに終えるべきだからの。
さすがっす!何回も取り上げてきた『モーニン』ですが、これにて完結ですね。
何を言っておる?次は『モーニン』のドラム・フィル特集じゃな。
まだやるんかい。
おわりに
『Moanin’』──それは、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズが1958年に残した、永遠の夜明け前の音。
何十年経っても、この曲が鳴るたびに誰かの内側で朝が始まる。
『モーニン』は、まだ終わっていない。
いや、終わらない音楽なのだ。
ちょ、なんか勝手にいい感じに締めてるし!
4コマ作者
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商業誌での受賞経験あり。
約1年間Web連載の漫画原作(ネーム担当)経験あり。
2019年よりフリーで活動中。
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