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心に染みる名曲、チャールズ・ミンガスの『Goodbye Pork Pie Hat』

JAZZあれこれ

どうも、ズワイガニです。

皆さんは、音楽を聴いていて「まるで楽器が泣いているみたいだ」と感じたことはありませんか?

ジャズには、アップテンポで体が勝手に動き出してしまうようなノリノリの曲もたくさんありますが、夜更けに一人でじっくりと耳を傾けたくなるような、哀愁たっぷりのバラードもまた、大きな魅力のひとつです。

今回は、ジャズの歴史のなかでも「最も美しく、そして最も哀しい名曲」と呼んでも過言ではない一曲、『Goodbye Pork Pie Hat(グッドバイ・ポーク・パイ・ハット)』をご紹介します。

作曲したのは、ジャズ界きっての破天荒な天才ベース奏者、チャールズ・ミンガス。タイトルにある「ポーク・パイ・ハット」とは、一体誰の帽子なのでしょうか?そして、なぜこの曲が生まれたのでしょうか?その背景にあるドラマを知ると、この曲のメロディがさらに深く心に染み渡るはずです。

それでは、さっそく解説していきましょう!

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ジャズ界きっての「怒れる男」であり繊細な天才、チャールズ・ミンガス

まずは、この曲を生み出したチャールズ・ミンガスという人物についてお話ししましょう。

ミンガスは、1920年代から70年代にかけて活躍した、ジャズ史に燦然と輝く偉大なウッド・ベース奏者であり、作曲家です。

彼のプレイスタイルは、とにかくエネルギッシュ!太くて力強い音色でバンド全体をグイグイと引っ張っていく、圧倒的な存在感を持っていました。

また、作曲家としても非常に優れており、ブルースや黒人教会のゴスペル音楽の要素を土台にしながらも、クラシック音楽のような緻密なアレンジを取り入れるなど、とても独創的な音楽を作り上げました。

しかし、ミンガスを語るうえで欠かせないのが、その「激しすぎる性格」です。彼は「ジャズ界の怒れる男」と呼ばれるほど気性が荒く、数々の伝説的なエピソードを残しています。

たとえば、ライヴ中に観客のおしゃべりがうるさいと怒って演奏をストップしてしまったり、自分の要求に応えられないバンド・メンバーをステージ上で怒鳴りつけたり、ひどい時には楽器を壊してしまったり・・・。とにかく豪快で、妥協を許さない完璧主義者でした。

ですが、そんな破天荒なエピソードの裏側には、驚くほど繊細で愛情深い素顔が隠されていました。彼の書くバラード曲を聴くと、激しい怒りの奥底にある、人間に対する深い愛や優しさがひしひしと伝わってくるんです。

今回ご紹介する『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』も、そんなミンガスの「仲間への深い愛情とリスペクト」から生まれた楽曲なのです。

タイトルの「ポーク・パイ・ハット」って誰の帽子?

さて、曲のタイトルである『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』。日本語に直訳すると「さよなら、ポーク・パイ・ハット」となります。

「ポーク・パイ・ハット」というのは帽子の種類のこと。てっぺんが平らで縁が少し上がっている形が、イギリスの伝統的な肉料理「ポークパイ」に似ていることから、その名がつけられました。

こんな帽子です↓

では、この帽子を被っていたのは誰なのか?

それは、ジャズの歴史を語るうえで絶対に外すことのできない伝説のテナー・サックス奏者、レスター・ヤングです。

レスター・ヤングは、1930年代のスウィング・ジャズ全盛期から活躍した大スターです。当時のテナー・サックスといえば、太くて男性的な力強い音色で吹くのが主流でした。しかしレスターは、それとはまったく逆の、ソフトで軽やか、そしてどこか物憂げな音色で、流れるように美しいフレーズを吹いたのです。

この革新的なスタイルは、のちの「クール・ジャズ」と呼ばれるスタイルの先駆けとなり、後進のサックス奏者たちに計り知れない影響を与えました。

彼は、あの伝説的なジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイとも大の親友で、お互いにニックネームで呼び合っていました。ビリーはレスターのことを「プレジデント(大統領)」を略して「プレス」と呼び、レスターはビリーを「レディ・デイ」と呼んでいました。

そんなレスター・ヤングのトレードマークが、お洒落なポーク・パイ・ハットだったのです。彼はこの帽子を少し斜めに被り、テナー・サックスをまるでフルートのように横に持ち上げて吹くという、独自のクールなスタイルを持っていました。

偉大な先輩への哀悼の意を込めて

1959年3月15日、ジャズ界に悲しい知らせが駆け巡ります。長年アルコール依存症などに苦しんでいたレスター・ヤングが、49歳という若さでこの世を去ってしまったのです。

その訃報から約2ヶ月後の1959年5月。チャールズ・ミンガスは自身のバンドを率いて、アルバムのレコーディング・スタジオにいました。そこで、亡きレスター・ヤングへの追悼の意を込めて急遽録音されたのが、この『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』でした。

曲は、ゆっくりとしたテンポのブルース形式で進んでいきます。ただし、普通のブルースとは違い、ミンガスならではの複雑で美しいコード進行(和音の並び)が使われています。

テーマのメロディは、どこか悲しげで、文字通り「すすり泣いている」かのような哀愁に満ちています。2本のテナー・サックスが重なり合い、絡み合うようにメロディを奏でるアレンジは、まるでレスター・ヤングの魂がそこに降りてきたかのよう。聴いているだけで胸が締め付けられるような、優しさと悲しさが同居する本当に美しい演奏です。

ちなみに、レスター・ヤングが亡くなったわずか4ヶ月後、後を追うように親友のビリー・ホリデイもこの世を去ってしまいます。1959年はジャズの黄金年であると同時に、偉大な星たちが次々と空へ帰っていった、少し切ない年でもあったんですね。

原曲を聴くならこの歴史的大名盤!

ここで、この『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』の原曲が収録されている、ジャズ史に残る大名盤をご紹介します。

Mingus Ah Um / チャールズ・ミンガス (1959)

ジャズの歴史において「1959年」という年は、奇跡のような名盤が次々と生まれた「黄金の年」として知られています。マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』や、デイヴ・ブルーベックの『Time Out』といった超有名盤と並んで、この年にリリースされたのが、ミンガスの最高傑作との呼び声高い『Mingus Ah Um(ミンガス・アー・アム)』です。

このアルバムの大きな特徴は、ミンガスが敬愛する音楽家たちへのオマージュ(賛辞)となる曲が多く収録されていることです。レスター・ヤングに捧げた『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』はもちろんのこと、デューク・エリントンやチャーリー・パーカーといったジャズの巨人たちへのリスペクトがたっぷりと詰まっています。

『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』でフィーチャーされているのは、ジョン・ハンディというサックス奏者によるテナー・サックスのソロです。彼はレスター・ヤングのスタイルをただ真似るのではなく、自分自身の情熱的でブルージーな音色を使って、亡き先輩への想いをサックスに吹き込んでいます。

初心者の方でも、音が震えるようなヴィブラートや、感情の揺れ動きがダイレクトに伝わってくるはずです。

ジャンルを超えて愛される名カヴァーたち

『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』の凄さは、純粋なジャズの枠を超えて、ロックやポップスなど他ジャンルのミュージシャンたちからも深く愛されているところにあります。

その美しいメロディに惹かれ、多くのアーティストが素晴らしいカヴァー・ヴァージョンを残しています。ここでは、特に有名な2つのカヴァーをご紹介しましょう。

Wired / ジェフ・ベック (1976)

まずは、ロック界を代表するギターの神様、ジェフ・ベックによるカヴァーです。彼の代表作であるインストゥルメンタル・アルバム『Wired』に収録されています。

ジェフ・ベックは、エレクトリック・ギターのギュイーンという歪んだ音色(ディストーション)や、音程を滑らかに上下させるアーミングといったテクニックを駆使して、原曲のテナー・サックスが持っていた「すすり泣き」を、見事にギターで表現しています。

彼はこの曲をただなぞるのではなく、ロック・ギタリストとしての解釈で、むせび泣くような感情を爆発させています。特に後半に向かって熱を帯びていくギター・ソロは圧巻の一言です。

ロックのダイナミズムとジャズの洗練されたハーモニーが融合したこの演奏は、当時のロック・ファンがジャズに興味を持つ大きなきっかけにもなりました。キーボード奏者のヤン・ハマーとのスリリングな掛け合いも聴きどころで、ジャズとロックが融合した「フュージョン」というジャンルの真骨頂を味わえる歴史的な名演です。

Mingus / ジョニ・ミッチェル (1979)

もうひとつは、カナダ出身の偉大なシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェルによるヴォーカル・ヴァージョンです。

このアルバム『Mingus』は、晩年のチャールズ・ミンガスとジョニ・ミッチェルが共同で制作した、非常に特別な作品です。

当時、ミンガスはALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患い、車椅子での生活を余儀なくされていました。自らウッド・ベースを弾くことができなくなった彼は、ジョニに「自分の曲に歌詞をつけて歌ってほしい」と依頼したのです。

ジョニ自身も、この歴史的な名曲に言葉を乗せるのは非常にプレッシャーだったと語っていますが、彼女はレスター・ヤングとの思い出や、当時の黒人ミュージシャンたちが直面していた人種差別の歴史を織り込んだ、深く詩的な歌詞を見事につけました。

バックを務めるのは、天才エレクトリック・ベース奏者のジャコ・パストリアスや、ウェイン・ショーター(ソプラノ・サックス)、ハービー・ハンコック(ピアノ)といった超一流のジャズ・ミュージシャンたち。ジョニの浮遊感のある美しいヴォーカルと、ジャコの歌うようなベース・ラインが絡み合う様は、鳥肌が立つほどの感動を呼びます。

しかし残念なことに、ミンガスはこのアルバムの完成を待たずして、1979年の1月にこの世を去ってしまいました。

レスター・ヤングへの追悼曲として作られた楽曲が収録されたこのアルバム自体が、今度はチャールズ・ミンガスへの追悼作品となってしまったのです。なんとも運命的で、胸を打つエピソードですよね。

おわりに

いかがでしたか?今回は、チャールズ・ミンガスの名曲『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』についてご紹介しました。

レスター・ヤングという一人の偉大なテナー・サックス奏者の死を悼んで作られたこの曲は、時代を超え、ジャンルを超え、今もなお多くの人々の心を揺さぶり続けています。

ジャズは、ただ楽譜の音符をなぞるだけの音楽ではありません。演奏者の人生や感情、苦悩、そして仲間への深い愛が、その音色にたっぷりと込められている音楽なのです。その背景を知ってから曲を聴くと、今までとはまったく違った景色が見えてくると思います。

今回ご紹介したミンガスの『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』をぜひ聴いてみてくださいね。きっと、あなたの心に優しく寄り添ってくれるはずです。

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