どうも、ズワイガニです。
ソニー・ロリンズの名曲として、今やジャズ・スタンダードになっている『セント・トーマス』。
初心者にも親しみやすい明るいメロディが特徴ですが、その背景には彼のパーソナルなルーツが隠されています。
今回は、名曲『セント・トーマス』について詳しく紹介します!
ジャズ初心者必聴の名盤『サキソフォン・コロッサス』に収録
ソニー・ロリンズはキャリアの中で三度活動休止(雲隠れ)をしているのですが、彼はただ休んでいたわけではありません。
1度目はドラッグを断ち切るため(1954〜55年)、2度目は自身の音楽を見つめ直して橋の上でサックスの練習に明け暮れるため(1959〜61年)、そして3度目はヨガや東洋思想を学んで精神的な修行をするため(1968〜71年)と、常に自分自身や音楽と真摯に向き合うための充電期間でした。
そんな求道者のような一面を持つ彼ですが、見事ドラッグを克服した1度目の活動休止からの復帰後、名門バンド「クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテット」に参加しながら、1956年に再びニューヨークに戻ってきました。

その年の1956年にプレスティッジからリリースされたのが、ジャズ史に輝く大名盤『Saxophone Colossus(サキソフォン・コロッサス)』です。
サキソフォン・コロッサス / ソニー・ロリンズ (1956)
このアルバムの1曲目を飾っているのが、今回紹介する『セント・トーマス』です。
レコーディング・メンバーはこちら。
- ソニー・ロリンズ(ts)
- トミー・フラナガン(p)
- ダグ・ワトキンス(b)
- マックス・ローチ(ds)
名盤請負人とも言われるトミー・フラナガンや、天才ドラマーのマックス・ローチが参加しています。
ここで注目したいのはレコーディング日です。録音が行われたのは56年6月22日。実は、トランペットの天才クリフォード・ブラウンが不慮の事故で亡くなったのが同年6月26日です。つまり、彼が亡くなるわずか4日前のレコーディングでした。
ロリンズが「クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテット」に在籍していた時期の、非常に貴重な記録でもあるのです。
カリプソのリズムと母親の思い出
『セント・トーマス』を聴くと、ジャズでありながらどこか南国風の陽気なリズムを感じるはずです。これは、この曲が伝統的なカリプソ・ソングをベースにしているからです。

カリプソは20世紀初頭にカリブ海で生まれた音楽なんじゃよ。植民地と化したカリブ海の島々に連れてこられたアフリカ人たちは、お互いに言葉が通じなかった。そこで、コミュニケーションの手段として発展したのがカリプソの始まりなんじゃ。レゲエのルーツの一つとも言われておるぞ。
ソニー・ロリンズの母親は、カリブ海に浮かぶヴァージン諸島のセント・トーマス島出身でした。
この曲は、母親がよく歌っていて、ロリンズ自身も子どもの頃から親しんでいた思い出のメロディなのです。
マックス・ローチの軽快なドラム・ソロから始まり、テナー・サックスが陽気なテーマを奏でるこの曲には、彼のルーツへの深いリスペクトが詰まっています。
作曲者ではなくアレンジャー?レコード会社のフライング
実は『セント・トーマス』のメロディは、元をたどるとイングランドの伝承歌曲『The Lincolnshire Poacher』だと言われています。それが伝承の過程で、ヴァージン諸島特有のカリプソの形に変容していきました。
そのため、ロリンズ自身はこの曲を「自分はアレンジしただけ」だと考えていました。クレジットも「作曲者」ではなく「アレンジャー」として載せてもらうよう要望していたそうです。
しかし、いざレコードが発売されてみると、レコード会社の判断(あるいは手違い)で、堂々とロリンズが「作曲者」としてクレジットされてしまっていました。後のインタビューで、本人がその裏話を苦笑交じりに語っています。
おわりに
『セント・トーマス』は、ただ親しみやすい名曲というだけでなく、ソニー・ロリンズのルーツや家族への思い、そして激動のジャズ史の1ページが刻まれた特別な楽曲です。
この曲は彼の生涯のレパートリーとなり、2005年に行われた最後の日本公演(ライヴ)でも特別なヴァージョンとして演奏されました。
まだ聴いたことがない方は、ぜひ聴いてみてくださいね!マックス・ローチの心地よいリズムと、ソニー・ロリンズの豪快かつ温かいテナー・サックスの響きに、きっと心を掴まれますよ!


