ここはとある町の喫茶店。
レコードを聴きながら今日もマスターはつぶやく。
【4コマ漫画】喫茶店マスターのつぶやき23

シェリー・マンの『教会に間に合うように行ってくれ』の解説
1956年に録音されたアルバム『マイ・フェア・レディ』は、ジャズ史において非常に重要な意味を持つ作品です。
それまでジャズ・ミュージシャンがブロードウェイ・ミュージカルの楽曲を単発で取り上げることはありましたが、一つのミュージカル作品をアルバム丸ごとカヴァーするという試みは、本作が初めてのことでした。この画期的なアイディアは空前の大ヒットを記録し、その後のジャズ界に新たな潮流を生み出しました。
その記念すべきアルバムの幕開けを飾る第一曲目が、今回ご紹介する『教会に間に合うように行ってくれ』です。
原曲は、フレデリック・ロウが作曲を手掛けたミュージカル・ナンバーであり、主人公イライザの父親が自身の結婚式を前にして「明日の朝には教会に間に合うように行ってくれ」と陽気に歌い踊る、祝祭感に満ちたコミカルな楽曲です。この原曲が持つ快活なエネルギーを、リーダーであるシェリー・マン率いるピアノ・トリオは見事なまでに洗練されたジャズの言語へと翻訳してみせました。
演奏を手掛ける「シェリー・マン&ヒズ・フレンズ」は、当時のウェスト・コースト・ジャズを代表する名手たちによって構成されています。
ドラムスを担当するシェリー・マンは、単にリズムをキープするだけでなく、まるでメロディを歌い上げるかのような色彩豊かなシンバル・ワークを披露しています。ピアノのアンドレ・プレヴィンは、後にクラシック音楽界の世界的指揮者となるほどの卓越した技術と深い音楽的教養を持ち合わせており、本作でも流麗でありながらハードにスウィングする知的なプレイを展開しています。そして、ベースのリロイ・ヴィネガーが刻む、重厚で安定感のあるウォーキング・ベースが、トリオ全体の演奏を根底からしっかりと支えています。
また、本作を語る上で欠かせないのが、その卓越した録音のクオリティです。西海岸の名門レーベル「コンテンポラリー・レコード」の伝説的な録音エンジニアであるロイ・デュナンが手掛けたサウンドは、各楽器の音の粒立ちが極めて良く、まるで目の前で演奏が行われているかのような生々しい臨場感に溢れています。
プレヴィンのピアノのクリアな打鍵音、ヴィネガーのアコースティック・ベースのふくよかな響き、そしてシェリー・マンのドラムスが放つ乾いたアタック音の絶妙なバランスは、オーディオ・ファンからも高く評価され続けています。
楽曲がスタートすると、軽快なテンポの中で三者の息の合ったインタープレイが繰り広げられます。プレヴィンの洗練されたフレージングと、それに呼応するシェリー・マンの機知に富んだドラミングは、まるで上質な会話を楽しんでいるかのようです。決して熱狂しすぎることなく、常にクールな品格を保ちながらも、その内面には確かなスウィングの熱を秘めている・・・これこそが、ウェスト・コースト・ジャズの「粋」を体現した演奏と言えるでしょう。
『教会に間に合うように行ってくれ』は、単なるミュージカル音楽のジャズ・ヴァージョンという枠を超え、ジャズの新しい可能性を提示した歴史的な名演です。その親しみやすいメロディと心地よいリズムは、これからジャズの奥深い世界へと足を踏み入れようとする方にとって、極上の入り口となってくれるに違いありません。
4コマ作者
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商業誌での受賞経験あり。
約1年間Web連載の漫画原作(ネーム担当)経験あり。
2019年よりフリーで活動中。
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