ここはとある町の喫茶店。
レコードを聴きながら今日もマスターはつぶやく。
【4コマ漫画】喫茶店マスターのつぶやき22

サマー・タイムの解説
皆様は、『Summertime』という楽曲に対してどのような情景を思い浮かべるでしょうか・・・。
1935年に初演されたオペラ『ポーギーとベス』のために、ジョージ・ガーシュウィンが作曲し、デュボース・ヘイワードが作詞を手掛けたこの楽曲は、ジャズの歴史において最も多く演奏されてきたスタンダード・ナンバーの一つとして知られています。
舞台となるのは、1920年代のアメリカ南部、サウスカロライナ州の架空の黒人居住区「キャットフィッシュ・ロウ」です。第一幕の冒頭、若い母親であるクララが赤ん坊を寝かしつけるために歌う子守唄、それが『Summertime』です。
歌詞には「夏が来て、暮らしは楽になる。魚は跳ねて、綿花は高く育つ」という、豊かで穏やかな情景が描かれています。しかし、ガーシュウィンがこの詩に与えたメロディは、ブルースのフィーリングを色濃く反映したマイナー・キー(短調)でした。希望に満ちた言葉とは裏腹に、どこか物憂げで、これから起こる悲劇を予感させるような不穏な空気を纏っているのです。この「歌詞の明るさと旋律の暗さ」というアンビバレントな性質こそが、後世のジャズ・ミュージシャンたちの知的好奇心と表現欲を強く掻き立てることになります。
数多ある名演の中でも、ジャズ史に燦然と輝く金字塔として挙げられるのが、マイルス・デイヴィスの1959年のアルバム『Porgy and Bess』に収録されたヴァージョンです。
1958年に録音されたこの作品では、盟友であるアレンジャーのギル・エヴァンスが緻密で美しいオーケストレーションを施しています。マイルス・デイヴィスはトランペットとフリューゲル・ホルンを駆使し、まるで人間の肉声そのもののような、むせび泣くトーンを響かせました。オペラという原曲のドラマ性を深く理解しつつ、極限まで無駄を削ぎ落とした静謐なプレイは、ジャズが高度な芸術音楽であることを世に知らしめた瞬間でもありました。
一方で、原曲の解釈をさらに別の次元へと押し広げたのが、ジョン・コルトレーンです。1961年のアルバム『My Favorite Things』に収められた録音では、彼はテナー・サックスを手に取り、原曲の持つ哀愁をより深く、より熱狂的に掘り下げています。
録音スタジオでの張り詰めた空気感が伝わってくるようなこのセッションでは、マッコイ・タイナーの硬質で知的なピアノと、エルヴィン・ジョーンズが叩き出す波のようにうねるポリリズミックなドラムスが、コルトレーンの演奏を力強く煽り立てます。彼のテナー・サックスは、子守唄という本来の枠組みを軽々と破壊し、時に咆哮し、時に深く祈るようなスピリチュアルな領域へと到達しているのです。
偉大なヴォーカリストであるビリー・ホリデイが1936年にいち早くカヴァーして以来、『Summertime』は時代やジャンルを超え、数万回とも言われる途方もない数の録音が残されてきました。
ある時は気怠く甘美に、ある時は前衛的でスリリングに・・・演奏者の数だけ全く異なる風景を見せてくれるこの楽曲は、いわば音楽家の魂を映し出す鏡のような存在です。
一つのメロディがいかにして多様な変容を遂げるのか。その果てしない軌跡を辿り、聴き比べることこそ、ジャズという音楽に触れる上で最も豊潤で、知的な悦びと言えるのではないでしょうか。
4コマ作者
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商業誌での受賞経験あり。
約1年間Web連載の漫画原作(ネーム担当)経験あり。
2019年よりフリーで活動中。
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