どうも、ズワイガニです。
ジャズを聴き始めると、「ブルーノート」や「プレスティッジ」、「リバーサイド」など、いろんなレコード・レーベルの名前を耳にするようになりますよね。
「アーティスト名やアルバム名ならともかく、なんでレーベル名まで覚えるの・・・?」と思う初心者さんもいるかもしれませんが、実はジャズにおいてレーベルは、映画の制作会社やファッションのブランドのようなものなんです。レーベルごとに「うちはこういうサウンドで勝負するぜ!」という強烈な個性やカラーがあり、それを知るとジャズを聴くのが何倍も楽しくなります。
今回は、そんな名門レーベルの中でも「サヴォイ(Savoy)」についてご紹介します。
ジャズ初心者の方にとっては、「ブルーノート」などに比べると少し渋いイメージがあるかもしれませんが、実はジャズの歴史を語る上で欠かせない、超・重要レーベルなんですよ!
それでは、サヴォイ・レコードがどんなレーベルで、どんな名盤を生み出してきたのかを解説していきますね。
サヴォイ・レコードの誕生と名物社長
サヴォイ・レコードは、1942年にアメリカのニュージャージー州ニューアークで誕生しました。設立者はハーマン・ルビンスキーというビジネスマンです。彼は元々、ラジオの修理やレコード販売を行うショップを経営していました。
設立当初のサヴォイは、スウィング・ジャズやR&B、そしてゴスペルなどを中心に録音していました。特にゴスペルやR&Bの分野では大成功を収め、レーベルの大きな資金源になっていたんです。
実は、サヴォイが設立された1942年当時、アメリカの音楽業界は大きなトラブルに見舞われていました。ミュージシャンの労働組合(AFM)が、レコード会社に対してストライキ(レコーディング・バン)を起こし、一切の録音活動がストップしてしまったんです。
大手レーベルが身動きを取れない中、ルビンスキーはこの隙を突いて、ストライキ明けにいち早く新しい才能を録音し始めました。ピンチをチャンスに変える、まさに商売人の嗅覚ですね!
ここで少し面白い裏話を。社長のハーマン・ルビンスキーは、なかなかの名物社長でした。というのも、彼は非常に商魂たくましく、ギャラを安く抑えることで有名だったんです。そのため、ミュージシャンたちからの評判は決して良くなく、ケチな社長として嫌われることもしばしばあったとか・・・。
しかし、彼がビジネスとして割り切って次々とレコードを制作してくれたおかげで、当時の貴重な演奏が現代まで残っているのも事実です。芸術を愛するパトロンというよりは、ゴリゴリのビジネスマンだったルビンスキーですが、結果的にジャズの歴史に多大な貢献をしたキーパーソンと言えますね。
ビバップの夜明けと「バード」の飛翔
サヴォイの名前をジャズ史に永遠に刻み込んだ出来事・・・それが「ビバップ」の録音です。
1940年代半ば、ジャズ界に新しい波が到来します。それまでのビッグバンドによる「踊るためのジャズ(スウィング・ジャズ)」から、少人数編成で激しいアドリブ演奏を繰り広げる「聴くためのジャズ」へと進化したんです。これが「ビバップ」です。
ビバップの特徴は、なんといってもそのスリリングな即興演奏。決められたメロディを吹いた後は、コード進行を頼りに猛烈なスピードで自由に音を紡ぎ出していきます。当時の若者たちにとって、それはこれまでにないほど刺激的で、反逆精神に満ちた新しい音楽でした。
この新しい音楽にいち早く目をつけたのが、サヴォイのプロデューサー(A&R)として雇われたテディ・リーグです。彼はニューヨークのクラブに入り浸り、夜な夜なジャム・セッションを繰り広げていた若きミュージシャンたちを次々とスカウトしました。その中には、「バード」の愛称で知られる天才アルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーや、トランペットのディジー・ガレスピーが含まれていました。
そして1945年11月、ジャズの歴史を変える伝説のレコーディングが行われます。これが俗に言う「Ko-Ko」セッションです。チャーリー・パーカーが初めてリーダーとして臨んだこの録音には、まだ10代だった若きマイルス・デイヴィス(トランペット)も参加していました。
ちなみに、表題曲の「Ko-Ko」はあまりにもテンポが速すぎたため、マイルスが演奏を断念してしまい、急遽ディジー・ガレスピーがトランペット(とピアノ!)を担当したという有名な裏話もあります。天才たちの人間らしい一面やドタバタ劇が垣間見えるのも、このセッションの面白いところです。
当時の大手レーベルが「こんな難解な音楽は売れない」と敬遠していたビバップを、サヴォイはいち早くレコードに刻みました。サヴォイはまさに「ビバップの誕生」をドキュメンタリーのように記録した、奇跡のレーベルなんです!
ハード・バップ黄金期と名プロデューサー
1950年代に入ると、ビバップはより洗練され、ブルージーで親しみやすい「ハード・バップ」へと進化していきます。この時期のサヴォイを支えたのが、1954年にプロデューサーとして就任したオジー・カデナです。
なんと彼、元々はルビンスキー社長が経営するレコード店の店員だったんです!そこからプロデューサーに抜擢されるなんて、すごいシンデレラ・ストーリーですよね。
カデナは非常に耳が良く、数々の素晴らしいアイデアでサヴォイを大躍進させました。例えば、J・J・ジョンソンとカイ・ウィンディングという2人のトロンボーン奏者を組ませた「J&K」という大人気ユニットも、彼の発案で誕生したんですよ。
さらに、この時期のサヴォイ作品の多くは、ジャズ界最高の録音エンジニアとして名高いルディ・ヴァン・ゲルダーがレコーディングを担当しています。彼の手がけた録音は、楽器の音が太く、生々しい迫力があるのが特徴です。
ゴスペルやR&Bのヒットで得た豊富な資金力をバックに、カデナの優れたプロデュースとヴァン・ゲルダーの高音質録音が合わさり、サヴォイはハード・バップの傑作を次々と世に送り出していきました。
サヴォイを代表する名盤3選
サヴォイの歴史が分かったところで、ここからはサヴォイの魅力をたっぷりと味わえる名盤を3つご紹介します!
The Charlie Parker Story / チャーリー・パーカー (1956)
ビバップの原点にして頂点!先ほどご紹介した1945年11月の歴史的セッションをまとめたアルバムです。
天才チャーリー・パーカーの神がかったアルト・サックスのプレイが堪能できるのはもちろんですが、このアルバムの面白いところは「失敗テイク」や「別ヴァージョン」もそのまま順番に収録されているところです。
「あ、ここで間違えちゃったんだな」とか「この曲はこういう風に作られていったんだな」という、スタジオの生々しい空気感が伝わってきます。名曲『Now’s the Time』や『Billie’s Bounce』などが生まれる瞬間を、まるでその場にいるかのように体感できる、歴史的資料としても音楽としても一級品のアルバムです。若きマイルス・デイヴィスの初々しいプレイも必聴ですよ!
Blues-ette / カーティス・フラー (1959)
トロンボーン奏者カーティス・フラーの代表作であり、サヴォイ屈指の大ヒット・アルバムです。
フロントを務めるのは、カーティス・フラーのトロンボーンと、ベニー・ゴルソンのテナー・サックスという珍しい2管編成。この2つの楽器が重なり合うことで生まれる、温かくて分厚いハーモニー(通称「ゴルソン・ハーモニー」)がたまらなく心地よいんです。
特に1曲目の『Five Spot After Dark』は、ジャズファンなら誰もが知っている超名曲!かつてテレビのCMなどでも使われていたので、ジャズ初心者の方でも「あ、聴いたことある!」となるはずです。
ピアノには名手トミー・フラナガンも参加しており、ルディ・ヴァン・ゲルダーによる極上の録音で楽しめる、ハード・バップの超名盤です。
Surf Ride / アート・ペッパー (1956)
西海岸の爽やかな風を感じる1枚!天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパーの初期の傑作です。
サヴォイというと東海岸(ニューヨーク周辺)の熱いハード・バップのイメージが強いですが、こうした「ウエスト・コースト・ジャズ」の素晴らしい作品も残しています。
アート・ペッパーは生涯を通じて麻薬問題などのトラブルを抱え、刑務所に出たり入ったりする波瀾万丈な人生を送りましたが、このアルバムに記録されている彼の演奏は、驚くほどピュアで美しく、そして力強いんです。
タイトル通り、波に乗るような心地よいスウィング感と、流れるような美しいメロディが最高!ジャケットに描かれた波とサーフボードのイラストも可愛らしくて、ジャズの小難しいイメージを吹き飛ばしてくれます。
「ジャズのサックスってかっこいい!」と素直に思わせてくれる、初心者の方にもすごく聴きやすいアルバムですよ。
おわりに
いかがでしたか?「サヴォイ(Savoy)」は、ビバップの誕生というジャズの歴史が動いた瞬間を捉え、その後のハード・バップ黄金期にかけて数々の名盤を世に送り出した偉大なレーベルです。
少しクセの強い社長や、レコード店員から成り上がったプロデューサーなど、裏方の人間ドラマも魅力的ですよね。
今回ご紹介した3枚のアルバムは、どれもジャズの楽しさがギュッと詰まった大名盤ばかりです。まだ聴いたことのない方はぜひ聴いてみてくださいね!

