どうも、ズワイガニです。
ジャズは、ただ音楽として楽しむだけでも最高ですが、その曲を演奏しているミュージシャンが「どんな人生を歩んできたのか」を知ることで、聴こえ方が何倍も深く、豊かになる音楽なんです。
そこで今回は、伝説のトランペッターの波乱万丈な人生を描いた映画『ブルーに生まれついて』(原題:Born to Be Blue)をご紹介します!
『ブルーに生まれついて』ってどんな映画?
2015年に制作され、日本では2016年に公開された本作は、1950年代のジャズ・シーンを一世を風靡した天才ミュージシャン、チェット・ベイカーの半生を描いた伝記的ラブストーリーです。
監督はロバート・バドロー、そして主人公のチェット・ベイカーを演じるのは、『6才のボクが、大人になるまで。』や『ビフォア・サンライズ』シリーズで知られる名優イーサン・ホークです。
物語の舞台は1960年代後半。かつては甘いマスクとソフトな歌声で大スターだったチェットですが、重度の麻薬依存によって転落人生を歩んでいました。
そんなある日、彼は麻薬絡みのトラブルで暴行を受け、トランペッターにとって命とも言える前歯を失い、顎を砕かれるという致命傷を負ってしまいます。
「もう二度とトランペットは吹けないだろう・・・」
世間からも音楽業界からも見放され、どん底に落ちたチェット。しかし、彼を献身的に支える一人の女性、ジェーン(カルメン・イジョゴ)との出会いをきっかけに、彼は再びステージに立つため、血の滲むような特訓と再起をかけた戦いを始めるのです。
ただの音楽映画ではなく、一人の不器用な男の挫折と再生を描いた、とてもドラマチックで胸を打つ作品に仕上がっています。
伝説のトランペッター、チェット・ベイカーとは?
ここで「そもそもチェット・ベイカーってどんな人なの?」というジャズ初心者の皆さんの疑問にお答えしておきましょう。
チェット・ベイカー(1929年〜1988年)は、アメリカ西海岸を中心に発展した「ウエストコースト・ジャズ(クール・ジャズ)」を代表するトランペット奏者であり、シンガーです。
1952年にバリトン・サックス奏者のジェリー・マリガン率いる「ピアノレス・カルテット」に参加して大ブレイク。その後、自身のバンドでも大成功を収めました。
彼の魅力は、なんといってもその中性的で甘い歌声と、優しく囁くようなトランペットの音色です。
当時のジャズ界といえば、黒人ミュージシャンが主流の時代でしたが、白人であるチェットは、その映画俳優のような端正なルックスも相まって「ジャズ界のジェームズ・ディーン」と呼ばれるほどのスーパーアイドルでした。
あのモダン・ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスをも凌ぐほどの絶大な人気を誇っていた時期もあったほどです。
しかし、その華やかな表の顔とは裏腹に、私生活はまさに破滅的でした。若くして麻薬(ヘロイン)に手を染めてしまった彼は、生涯を通じてドラッグから抜け出せず、何度も逮捕されたり、ライヴをすっぽかしたりと、トラブルメーカーとして悪名を轟かせてしまいます。
「天才的な音楽の才能」と「自堕落で破滅的な私生活」、この極端な二面性こそが、チェット・ベイカーという人物の危うい魅力であり、今なお多くのファンを惹きつけてやまない理由なのかもしれません。
ちなみに彼は、1988年にオランダのアムステルダムのホテルから謎の転落死を遂げるという、最期までドラマチックで悲劇的な生き様でした。
イーサン・ホークの熱演
この映画の最大の見どころは、なんといっても主演イーサン・ホークの神憑り的な演技です。
彼はチェット・ベイカーという複雑なキャラクターを演じるために、約6ヶ月もの間、トランペットの猛特訓を受けたそうです。
運指(指の動かし方)はもちろん、トランペットを吹くときの独特の表情や、猫背気味の姿勢、そして少し頼りなさげで母性本能をくすぐるような仕草まで、当時のチェットの映像を研究し尽くして完全に再現しています。
さらに驚きなのが、劇中の歌唱シーン!なんと、イーサン・ホーク自身が実際に歌っているんです。チェット特有の、あの脆くて消え入りそうな、それでいて聴く者の心にスッと入り込んでくる甘く切ない歌声を見事に表現していて、思わず鳥肌が立ちます。
「俺には音楽しかないんだ・・・」とすがりつくような瞳でトランペットを握りしめるイーサン・ホークの姿は、まさにチェット・ベイカー本人が乗り移ったかのようです。彼のキャリアの中でも最高傑作の演技だと絶賛されているのも納得です。
劇中を彩る名曲たち
本作は音楽映画としても一級品です。ジャズに詳しくなくても、「あ、このメロディ聴いたことあるかも!」というスタンダード・ナンバーがたくさん登場します。
中でも絶対に注目してほしいのが『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』です。この曲はチェットの代名詞とも言える名曲ですが、映画のクライマックス、彼が復活をかけてニューヨークの名門ジャズ・クラブ「バードランド」のステージに立つシーンで演奏されます。
愛する女性への想い、トランペットへの執念、そして麻薬という悪魔の誘惑・・・。様々な感情が入り混じったこのシーンでの『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』は、観ているこっちも感情がぐちゃぐちゃになってしまいます。
他にも、映画のタイトルにもなっている『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』をはじめ、『レッツ・ゲット・ロスト』や『虹の彼方に(Over the Rainbow)』など、極上の名曲がずらりと並びます。
部屋を少し暗くして、お酒を飲みながら観たくなるような、最高に贅沢な時間が流れますよ。
『ブルーに生まれついて』の見どころポイント
本作を見るにあたって、3つの見どころがありますので、ご紹介します。
ジャズの歴史や当時の空気感が肌で感じられる
1950年代〜60年代のアメリカのジャズ・クラブの熱気、レコーディング・スタジオの雰囲気、そしてミュージシャンたちのライヴ感が映像としてリアルに伝わってきます。
劇中には、マイルス・デイヴィスやディジー・ガレスピーといったジャズの巨匠たちもキャラクターとして登場します。
「当時の東海岸と西海岸のミュージシャンって、こんなバチバチのライバル関係だったのかな?」と、ジャズの歴史の裏側を覗き見しているようなワクワク感が味わえます。
音楽がとにかくロマンチックで聴きやすい
ジャズ特有の「難しそう」「敷居が高い」というイメージを完全に払拭してくれるのが、チェット・ベイカーの音楽です。
彼の奏でるウエストコースト・ジャズは、激しいアドリブ合戦というよりも、メロディを大切にしたリラックスできるサウンドが特徴です。
劇中で流れる音楽はどれもメロウで心地よく、ジャズ入門としてはこれ以上ないほど最高の入り口になります。
挫折と再生の人間ドラマとして純粋に面白い
「ジャズの知識が全くないから楽しめるか不安・・・」という方もご安心を。本作は音楽映画であると同時に、一人の不器用なダメ男のラブストーリーであり、壮絶な復活劇でもあります。
恋人ジェーンとのすれ違いや、人間としての弱さに葛藤する姿は、誰が観ても感情移入してしまうはず。映画単体としてめちゃくちゃ面白いので、気づけばジャズの世界に引き込まれていることでしょう。
映画を観た後におすすめのアルバム
映画を観終わった後、あなたは絶対に「チェット・ベイカーの音楽をもっと聴きたい!」と思うはず!ということで、映画の余韻に浸りながら聴いてほしい、おすすめの2枚のアルバムを紹介しておきますね。
Born to Be Blue (オリジナル・サウンドトラック) / Various Artists (2016)
まずは映画の感動をそのまま持ち歩きたいなら、このサントラ盤がおすすめ。音楽を担当したデヴィッド・ブレイドの素晴らしいアレンジと、実力派トランペッターであるケヴィン・ターコットによる劇中のトランペット演奏が収録されています。
もちろん、イーサン・ホークが哀愁たっぷりに歌い上げる『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』や『アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー』もバッチリ収録されていますよ!
Chet Baker Sings / チェット・ベイカー (1954)
「チェット・ベイカー本人の歌声が聴きたい!」という方は、絶対に外せないのがこの歴史的名盤です。
ジャズ・ヴォーカルの金字塔とも言える大ベストセラー・アルバムで、彼の甘くアンニュイな魅力がこれでもかと詰まっています。
休日の朝にコーヒーを淹れながら聴くのも良し、夜更けに間接照明の中で聴くのも良し。ジャズ初心者が最初に買うべき1枚として、自信を持っておすすめします!
おわりに
いかがだったでしょうか?今回は、伝説のジャズ・ミュージシャン、チェット・ベイカーの半生を描いた映画『ブルーに生まれついて』をご紹介しました。
ジャズは、ただ耳で聴くだけでなく、その音を奏でている人間の生き様を知ることで、さらに深く味わうことができる音楽です。チェットの破滅的でありながらも、音楽に対してだけは誰よりも純粋だった人生を知ってから彼のレコードに針を落とすと、トランペットの音色がより一層、心に沁みてくるはずです。
「ジャズをもっと知りたい」「お酒に合うおしゃれな映画が観たい」という方は、ぜひチェックしてみてくださいね!

