どうも、ズワイガニです。
ジャズのCDを買ったり、Apple MusicやSpotifyなどのサブスクでジャズの名盤を聴いていて、こんな疑問を持ったことはありませんか?
「あれ?アルバムの最後に、さっき聴いたのと同じタイトルの曲が入ってる・・・?」「曲名の後ろについてる (Alternate Take) って何・・・?」
そうなんです。ジャズのアルバムを聴いていると、必ずと言っていいほど遭遇するのが、この謎の重複曲たち。ポップスやロックのアルバムではあまり見かけない現象ですよね。
今回は、ジャズのアルバムによく登場する「Original Take(オリジナル・テイク)」と「Alternate Take(オルタネイト・テイク)」について、その違いや、なぜジャズにおいて別テイクがこんなにも重宝されるのか、分かりやすくカジュアルに解説していきます。
オリジナル・テイクとオルタネイト・テイクって何が違うの?
まずは、言葉の意味からスッキリさせていきましょう。
オリジナル・テイク(マスター・テイク)とは?
オリジナル・テイク(Original Take)とは、レコーディングされた複数の演奏(テイク)の中から、アーティスト本人やプロデューサーが「よし、これが今回のベストだ!これを世に出そう!」と選び抜いた、いわば「本番用のOKテイク」のことです。
「マスター・テイク」と呼ばれることもあります。 私たちが普段「この曲、名曲だな〜」と聴いているのは、基本的にはこのオリジナル・テイクになります。
オルタネイト・テイクとは?
一方、オルタネイト・テイク(Alternate Take)とは、レコーディングスタジオで録音はしたものの、最終的なアルバムの収録曲としては惜しくも選ばれなかった「別テイク(ボツになったテイク)」のことです。
「えっ、ボツになったテイクをわざわざ世に出してるの・・・?」と驚くかもしれませんね。
実は、レコードが主流だった1950年代〜70年代頃は、LPレコードの収録時間(片面約20分ちょっと)の都合もあり、これらの別テイクはレコード会社の倉庫の奥深くに眠らされていました。
しかし、1980年代以降にCDの時代が到来すると、収録時間にグッと余裕ができました。そこでレコード会社は、「せっかくだから、マニア向けに未発表の別テイクもボーナストラックとして入れちゃおう!」と考えたわけです。
現在サブスクで聴ける過去の名盤の多くは、このCD化された際に追加されたボーナストラック入りヴァージョンになっているため、アルバムの後半にオルタネイト・テイクがズラリと並んでいることが多いんですね。

なぜジャズには「別テイク」がたくさんあるの?
ここで一つの疑問が浮かびます。「そもそも、なんでそんなに何回も同じ曲を録音してるの?」ということです。これには、ジャズという音楽ならではの2つの大きな理由があります。
ジャズの命は「インプロヴィゼーション(即興演奏)」だから
ポップスやクラシックの場合、楽譜通りに完璧に演奏・歌唱できたテイクがベストとされることが多いですよね。しかし、ジャズの最大の魅力は「インプロヴィゼーション(即興演奏)」、つまりアドリブにあります。
ジャズのレコーディングでは、テーマ(メインのメロディ)こそ決まっていますが、その後のソロパートは毎回ミュージシャンがその場で生み出しています。つまり、テイク1とテイク2では、ソロの内容が全く違うのです!
「テイク1は優等生っぽいまとまり方だったけど、テイク2は荒削りだけどめちゃくちゃパッションがあるぞ!」「テイク3はピアノのソロが神がかっていたけど、ドラムが少し走りすぎたな・・・」
このように、ジャズのレコーディングは正解を録る作業ではなく、奇跡の瞬間を捕まえるためのセッションなのです。だからこそ、ミュージシャンたちは納得がいくまで、あるいは異なるアプローチを試すために、何度も同じ曲を演奏します。
「一発録り」というレコーディングの歴史
もう一つの理由は、録音技術の歴史に関係しています。1950年代や60年代のモダン・ジャズ黄金期は、現代のように「ドラムだけ先に録って、後からベースとピアノを重ねて、最後にトランペットを録音する」といったマルチトラック録音の技術がまだ発達していませんでした。
当時のジャズのレコーディングは、基本的に「全員でせーの!で演奏する一発録り」です。
もし、曲の最後の最後で誰かが「あっ、間違えた・・・!」とミスをしてしまったら、どうなるでしょうか?現代ならパソコンのソフトでその部分だけ修正できますが、当時は「はい、もう一回最初から!」と、全員でテイク2を録り直すしかなかったのです。
この一発録りの緊張感と、誰かのちょっとしたミスによって生まれる副産物としての別テイク。これが、ジャズの録音にオルタネイト・テイクが多く存在する理由でもあります。
オルタネイト・テイクの楽しみ方
「ボツになったテイクなんて聴く意味あるの・・・?」と思っていた方も、少しずつ興味が湧いてきたのではないでしょうか?
ここでは、ジャズ通がやっているオルタネイト・テイクの楽しみ方を3つご紹介します!
アドリブ・ソロの「違い」を聴き比べる
これが一番の醍醐味です!オリジナル・テイクを何度も聴いて「このフレーズ、かっこいいな〜」と耳に馴染んできた頃に、オルタネイト・テイクを聴いてみてください。
「あれ!?ここで全然違うフレーズ吹いてる!」と、まるでパラレルワールドに迷い込んだような不思議な感覚を味わえます。
同じ曲なのに、その日の気分や直前のメンバーの演奏に触発されて、全く違うアプローチでソロを展開していく様子は、まさに生き物としてのジャズの面白さです。
プロデューサー気分で「なぜボツになったか」を推理する
「こっちのテイクもめちゃくちゃカッコいいのに、なんでオリジナルに選ばれなかったんだろう・・・?」と考えながら聴くのもオツな楽しみ方です。
「サックスのソロはこっちの方が熱いけど、全体の演奏時間はオリジナルの方がレコードに収まりやすかったのかな?」とか、「ベースがちょっとだけテンポを見失ってる気がするぞ」など、自分なりにプロデューサー目線で推理してみると、音楽を聴く解像度がグッと上がりますよ。
スタジオの「空気感」や「失敗」を楽しむ
オルタネイト・テイクの中には、「フォルス・スタート(False Start)」と呼ばれるものも収録されていることがあります。
これは、曲が始まって数秒〜数十秒で「ストップ、ストップ!やり直し!」と演奏を止めてしまったテイクのことです。
ここには、ミュージシャン同士の生々しい会話や、カウントを出す声、時には「今のテンポ早すぎるよ!」といったダメ出しの様子がそのまま収録されています。
雲の上の存在だと思っていたジャズの巨匠たちが、スタジオで人間くさく試行錯誤している空気感を感じられるのは、こうした別テイクならではの魅力です。
初心者におすすめ!名盤で聴き比べるオルタネイト・テイク
それでは最後に、初心者の方にぜひ聴き比べてほしい、歴史的名盤のオルタネイト・テイクをご紹介します。サブスクでも簡単に探せるので、ぜひチェックしてみてくださいね!
Kind of Blue / マイルス・デイヴィス (1959)
ジャズ史上最も売れた、そして最も偉大なアルバムと言われるのがこの作品です。
トランペットの帝王マイルス・デイヴィスのもとに、テナー・サックスのジョン・コルトレーン、アルト・サックスのキャノンボール・アダレイ、ピアノのビル・エヴァンスなど、全員が歴史に名を残す超ド級のレジェンドたちが集結した奇跡のセッションです。
このアルバムのCD版やサブスク版には、『Flamenco Sketches (Alternate Take)』が収録されています。
オリジナル・テイクの『Flamenco Sketches』は、静寂の中で各メンバーが繊細に音を紡いでいく、息を呑むほど美しい演奏です。一方のオルタネイト・テイクを聴き比べてみると、テンポの揺らぎや、各メンバーのソロの入り方、音の選び方に微妙な違いがあることに気づくはずです。
完璧とされるオリジナル・テイクに至るまでの、天才たちの試行錯誤のプロセスを覗き見できる、非常に貴重な音源です。
Giant Steps / ジョン・コルトレーン (1960)
テナー・サックスの求道者、ジョン・コルトレーンが残した超絶技巧の金字塔です。
タイトル曲の『Giant Steps』は、コード(和音)が目まぐるしく変わる難解な曲で、ジャズ・ミュージシャンにとっては登竜門のような存在として知られています。
実はこのアルバムのオルタネイト・テイクには、ちょっとマニアックで面白いエピソードがあります。
オリジナル・テイクの『Giant Steps』では、ピアノをトミー・フラナガンという名手が弾いています。しかし、あまりにも曲のテンポが速く、コード進行が難解だったため、フラナガンのソロは少しタジタジになっている・・・というのはジャズファンの間では有名な話です。
そして、ボーナストラックとして収録されている『Giant Steps (Alternate Take)』。こちらは、オリジナル・テイクが録音される約1ヶ月前に別のメンバーで録音されたボツ・ヴァージョンです。
この別テイクでは、ピアノをシダー・ウォルトンが担当しています。コルトレーンは「この曲、もっと速く、もっと激しくできるはずだ!」と納得がいかず、後日メンバーをトミー・フラナガンらに代えて録り直したのが、あの伝説のオリジナル・テイクなのです。
「コルトレーンがどれだけこの曲に懸けていたか」が伝わってくる、熱い別テイクです。
ザ・チャーリー・パーカー・ストーリー / チャーリー・パーカー (1956)
モダン・ジャズの基礎である「ビ・バップ」というスタイルを築き上げた天才アルト・サックス奏者、チャーリー・パーカー。彼が1945年にサヴォイ・レコードで行った伝説的なレコーディング・セッションをまとめたアルバム『ザ・チャーリー・パーカー・ストーリー』(1956年リリース) は、オルタネイト・テイクの宝庫です。
このアルバムが面白いのは、完成されたマスター・テイクや、それに匹敵する素晴らしいオルタネイト・テイクだけでなく、途中で誰かがミスをして演奏が止まってしまった「ショート・テイク(失敗テイク)」まで、録音された順番通りにそのまま収録されていることです。
「あ、間違えちゃった!」というようなスタジオでの生々しい空気や、テイクを重ねるごとに演奏の熱量が高まっていく過程が、まるでタイムスリップしてレコーディング・ブースの中にいるかのように伝わってきます。
天才パーカーがどのようにして歴史的な名演を生み出していったのか、その裏側を覗ける貴重な記録です。
おわりに
いかがでしたか?「Original Take」と「Alternate Take」の違い、そしてジャズにおける「別テイク」についてお伝えしてきました。
ジャズという音楽は、楽譜に書かれた音符を忠実に再現するものではなく、「その日、その場所、その瞬間にしか生まれない音の会話」を楽しむ音楽です。
だからこそ、オルタネイト・テイクは単なる「おまけ」や「失敗作」ではありません。それは、ミュージシャンたちが命を削って即興演奏に挑んだ、もう一つの「リアルな記録」なのです。
これからジャズのアルバムを聴くときは、ぜひアルバムの最後までスキップせずに、オルタネイト・テイクにも耳を傾けてみてください。
「あ、今日の自分はオリジナルよりこっちの別テイクの方が好きかも!」なんて思えるようになったら、あなたはもう立派なジャズ沼の住人ですよ!

